胎児大動脈弁形成術について

こんにちは、佐々木です。本日は先天的に重度の大動脈弁狭窄症を有する胎児へ出生前に外科的治療を行うという驚くべき治療法に関する話です。
先日のニュースで先天的に重症大動脈弁狭窄症を有する胎児に対し、国立生育医療センターで国内で初めてとなる胎児治療が行われたと報じられました。

大動脈弁狭窄症とは、大動脈の入り口(左心室の出口)が極端に狭くなる病気ですが、成人では左心室に大きな負担がかかり心不全を来します。重度となると外科的手術やカテーテル治療を要する重大な疾患です。稀に先天的に有することがありますが、重度であると左心室が正常に育たずに左心室低形成症候群へ発展し生命に危険が及ぶとされます。
画像:Wikipediaより引用
左心室低形成症候群で生まれてきた患児は標準的にはノーウッド手術→両方向性グレン手術→フォンタン手術という3段階の手術を必要とし、手術が完了しても定期的な通院が必要となり日常生活への影響も少なくありません。
今回報じられた胎児大動脈弁形成術は胎児期に大動脈弁狭窄への治療を行い、左室の形成を促すための治療とのことです。
当科は主に15歳以上の患者様への治療を行っており、先天性心疾患を有する患児の治療の実際に詳しい訳ではありませんが、まさか胎児期に治療を行なうことが有るなんて想像もしませんでした。
方法は実に驚異的であり、妊婦さんのお腹から胎児の左心室まで針を刺してガイドワイヤーを通し、それに沿ってバルーンの付いたカテーテルを大動脈弁まで進めてバルーンを膨らませ、狭くなっている大動脈弁を広げるというものです(バルーンでの大動脈弁狭窄を広げる治療自体は成人症例でカテーテル治療として行われることがありますが、通常は足の付け根の血管からカテーテルを挿入して行きます)。
ニュース記事によれば欧米ではすでに行われている、とのことですがイタリア人循環器医師の友人にこの治療の事を話してみたところ、私と同様に大層驚いていました。
画像:米国 Nationwide Children's Hospitalホームページより引用
母体は硬膜外麻酔で行い、胎児には大腿部に鎮痛薬を筋注する様です。放射線透視は不要でエコーガイドで行われます。
心筋を直接針で刺すため心臓の外に血液が漏れることがあり得ますが、上記の米国の子供病院のホームページ記載によれば血液が心膜腔に漏れた場合は針で心膜腔の血液を吸引するとのことです。
胎児の大きさも今回は25週ですから頭からお尻までが20cmちょっとであり、心臓は成人のそれよりもはるかに小さなものになります。言うまでもなくかなり慎重な操作が必要となります。胎児の循環は主に母体によって為されているため治療に際して人工心肺は不要であり、この治療により左室が形成され、生後に人工心肺を要する3回の心臓外科手術を回避出来ると考えれば結果的には患児への負担はかなり少ない治療と言えます。よくよく考えれば理にかなっていると言えますが、胎児に母体外から針を刺して治療してしまおうなどという発想が天才的というか、常人の発想とは思えません。。。

今回胎児治療を行った胎児は無事出生し、生後の経過も良好とのことです。

コメント

  1. 肝臓移植手術は、医学の最先端技術と人間の絆が見事に融合した素晴らしい成果です。ドナーと受取人の共感と努力が、新たな生命の奇跡を生み出しています。この手術は、日本の医療界において共感と技術の調和がどれほど重要かを示しており、社会全体に健康と希望をもたらしています。 海外 肝臓移植

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